巨大災害における雇用対策 ──災害社会科学から学ぶ|日本労働研究雑誌 2022年12月号(No.749)
巨大災害における雇用対策 ──災害社会科学から学ぶ
【著者】
永松 伸吾
(関西大学教授/国立研究開発法人防災科学技術研究所主幹研究員)
【要約】(論文より引用)
本稿は,災害社会科学における基本的概念の一つである脆弱性とレジリエンスを紹介し,わが国の巨大災害における雇用対策を捉え直すことを目的としている。レジリエンスは,システム外部からのショックを吸収し機能を維持する能力(吸収力),被害が発生してもその状況に適応し,最低限の機能を維持しつつ回復を遂げる能力(適応力),環境の変化に応じてシステムそのものの機能を変化させる能力(変化力)の三段階で構成される。わが国の巨大災害における雇用対策は,雇用調整助成金による雇用維持が主軸である。リーマンショックと東日本大震災では基金による雇用創出も行われてきたが,コロナ禍では実施されず,雇用調整助成金をパートやアルバイト等の非正規雇用に拡張することで雇用不安に対応した。これらは雇用システムの吸収力を高めることを目的とした対策であったが,それは他方で雇用の流動性を阻害するという副作用が指摘された。他方でコロナ禍では民間による雇用創出事業としてキャッシュ・フォー・ワークが実施され,雇用創出にとどまらず就労支援の機能も強化され,雇用システムの適応力や変化力を高めている。こうした経験を踏まえ,公的資金による雇用創出を再評価し,将来の巨大災害に備えるべきである。