取材記事

休プラ編集部

世界でも日本でも、当事者に伴走する。「取り残されている問題」に挑むアクセプト・インターナショナルの支援

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世界でも日本でも、当事者に伴走する。「取り残されている問題」に挑むアクセプト・インターナショナルの支援

コロナ禍による入国規制の解除後、日本で難民認定を申請する外国人が増えています。申請中で在留資格のない外国人は就労できず、公的支援も受けられないため、生活が困窮し、精神的にも追い詰められる傾向にあります。こうした難民認定申請者や非正規滞在者を支援するため、2023年度の休眠預金活用事業(緊急支援枠、資金分配団体:NPO法人青少年自立援助センター)による緊急人道支援を行っているのがNPO法人アクセプト・インターナショナルです。同団体は国内外で紛争や人道危機、社会的排除などの問題解決に取り組んでいます。今回は、団体の活動やその背景などについて、代表理事の永井陽右さん、国内事業局 局長の吉野京子さんを中心にお話を伺いました。

ソマリアから始まった「平和の担い手」を増やす取り組み

アクセプト・インターナショナルは「誰しもが平和の担い手となり、共に憎しみの連鎖をほどいていく」ことを目指し、世界の紛争地や日本で活動する団体です。2011年、大学1年生だった永井陽右さんは、世界で最も深刻な紛争国の一つとされていたソマリアの惨状を知り、「このまま見過ごしてはいけない」との思いから、仲間とともに活動を開始しました。

当時のソマリアは、頻発するテロや紛争によって貧困や飢餓が深刻化し、2年間で約26万人もの人々が命を落としていました。それにもかかわらず「危険すぎる」「解決策がない」からと、世界から見放されている状況に「そんな理由で支援が届かないのはおかしい」と強く感じた永井さん。「支援が必要とされているのに、難しさを理由に誰も手を差し伸べないのであれば、自分たちがやる」——その決意が活動の原点となっています。

永井さんたちはソマリアのテロや紛争を止めようと、若者が武装組織から抜け出し、社会復帰する支援を開始。2017年にはNPO法人アクセプト・インターナショナルを設立し、イエメンやケニア、インドネシア、コロンビア、パレスチナなど、世界の紛争地へと取り組みを広げていきました。

永井陽右さん(以下、永井)「テロリストの多くは、社会に居場所がないことや生活苦、脅迫などから武器を持たざるを得なかった若者たち。彼らを排除しても負の連鎖は終わりません。私たちが目指すのは、彼らが本来の若者らしく希望を持って生き、私たちと一緒に平和な世界をつくっていくことです」

団体設立の背景についてお話しされる永井陽右さん
団体設立の背景についてお話しされる永井陽右さん

海外での経験を活かし、日本でも「難しくて取り残されている問題」に着手

海外の経験を活かして日本でも「解決の担い手がいない難しい問題」に取り組もうと、2020年からは国内事業も開始。コロナ禍で海外事業の継続が困難になった時期とも重なり、国内の課題にあらためて目を向けるようになりました。現在は主に、非行少年の更生支援と、在日ムスリム(イスラム教徒)を中心とした在日外国人支援の2つの事業を展開しています。

非行少年の更生支援では、とくに社会の受け入れが難しい、重い犯罪に関与した若者の社会復帰を支援。相談支援をはじめ、社会復帰を後押しするための社会定着支援、居住支援、生活支援を実施し、さらに、啓発や教育の一環としてオンラインゼミも開講しています。

在日外国人支援では、日本社会におけるムスリムへの理解不足や文化の違いなどから、在日ムスリムが孤立しやすい現状をふまえ、とくにコロナ禍で生活が困窮している在日ムスリムを支援。現在もイスラム教徒が食べることができる「ハラル食品」の提供や生活相談、在日ムスリムによる共助ネットワークづくりなどを行っています。

「海外事業も日本事業も、つまるところは、課題を抱える当事者が社会の一員として主体的に生きていくための伴走支援。本質は変わりません」と永井さん。海外事業でテロの加害者だった若者と向き合ってきた経験が非行少年の更生事業に、多くのイスラム教徒と活動してきた経験が在日ムスリム支援に活かされるなど、これまでの知見が国内支援でも活かされています。

休眠預金を活用し、行き場のない難民認定申請者に緊急支援を実施

国内に活動を広げる中、コロナ禍が明けると、在日外国人からの相談にある変化が生じます。入国規制の解除にともない日本への入国者数が増え、それに比例して、難民認定申請者や非正規滞在者など在留資格が不安定な外国人からの食料や住居を求める相談が急増しました。それまでは定住している在日外国人からの相談が大半を占めていましたが、相談者も相談内容も大きく変わったのです。長年にわたり難民支援に携わってきた吉野さんは、その背景をこう説明します。

吉野京子さん(以下、吉野)「難民認定申請者は、紛争や迫害などさまざまな事情から逃れる中、たまたま日本の観光ビザを取得して日本へ来たという方がほとんど。入国後に難民申請するものの、その多くは難民認定がおりないまま、在留資格がない状態で日本に留まることになります。在留資格がなければ行政サービスを受けられず、国民健康保険にも加入できず、働くこともできないため、生活は困窮し、路上生活に追いこまれる人も……。収入がなく、行政の支援にもつなげられない彼らを、民間の支援団体や個人だけで支えるのには限界があり、支援から取り残されていたのです」

難民認定申請者が直面する課題や、支援の必要性について説明する吉野京子さん
難民認定申請者が直面する課題や、支援の必要性について説明する吉野京子さん

「これは自分たちがやるべき問題」と判断したアクセプト・インターナショナルは、 NPO法人 青少年自立援助センターが公募していた2023年度緊急支援枠の休眠預金活用事業に申請。これに採択され、難民認定申請者と非正規滞在者に向けた緊急人道支援事業を始めます。具体的には、食料物資の支援や、一時的に住む場所を確保する緊急居住支援、日本語教育、利用できる支援サービスへの橋渡しなどです。また、アウトリーチの手段として、世界で普及しているメッセージングアプリの「WhatsApp」を活用。これにより、支援情報が瞬く間に拡散し、短期間で多くの支援を必要とする外国人にリーチすることができました。

取材時点(2025年1月28日)で、相談登録者は約170名。フードパントリーやWhatsAppを通して相談者のニーズを聞き取り、それぞれが必要とする支援を届けています。イスラム教徒にはハラル食品を、フルーツが必要な人にはパイナップルやミカンなどの缶詰を、自分で料理をしたい人には小麦粉や豆、オイルなどの食材を提供するなど、個々の希望に寄り添った支援を実施。食料以外にも、子どもがいる家庭には成長に合わせた衣服を、女性には生理用品を配るなど、生活状況に応じたきめ細かなサポートを行っています。

吉野「こちらが良かれと思って送った食料でも、相手にとってはそうではないことが何度かありました。そんなときは、『何か別のものが必要だったのかな?』と考えるようにしています。可能な限りどんなものが必要かを聞き取ることで、本当に必要なものを知ることができ、相手も『受け止めてもらえた』と安心してもらえます。その安心感が、信頼につながりますから」

イスラム教徒が安心して食べられる「ハラル食品」の提供を含む食料物資支援を実施
イスラム教徒が安心して食べられる「ハラル食品」の提供を含む食料物資支援を実施

日本語を学びたいというニーズも高く、希望者には週1回、1人30分のオンライン日本語教室を実施。授業を担当するメルテンス甲斐さんは、単なる言語学習にとどまらず、コミュニケーションの場としての役割も大切にしています。

メルテンス甲斐さん「家族友人と遠く離れ、コミュニティから隔絶された生活を送る受講者にとって、授業は人とつながることのできる数少ない機会です。雑談を交えたり、生活相談を受けたりすることで、少しでも孤立感の解消につながればと思っています」

一方、「相談を待つだけでなく、こちらから能動的にアプローチすることも大切」と話すのは、食料物資支援を担当する冨山里桜さん。 

冨山里桜さん「相談者の中には、特にムスリマ(イスラム教徒の女性)のように、宗教的な背景や文化的な要因、周囲に頼れる人が少ないことなどから、支援を必要としていても声をあげられないケースもあります。実際、WhatsAppで連絡がつかないので訪問してみると、電気もガスも止まっていたという母子家庭のケースがありました。そうした方たちも取り残さないよう、こちらからこまめにコンタクトを取ることでフォローし、支援につなげるようにしています」

社会参加を通じて未来を切り開く支援のかたち

日本では難民認定率が低く、多くの難民認定申請者が中長期の展望を持ちにくい状況にあります。そんな中、「今回の事業では、まずは緊急支援として、難民認定申請者が人間として最低限の尊厳を保てることを第一の目標にしています」と吉野さん。その上で、専門家と連携し、相談者自身も交えて中長期的なプランを話し合い、日本で安定した生活を送るための法的支援も行っているそうです。また、在留資格がない外国人の子どもでも学校に通える制度を活用し、自治体と交渉して就学機会を確保するなど、今できる支援を重ねながら希望をつなげています。

こうした相談者のニーズを満たす支援だけでなく、相談者の主体性を促すはたらきかけも大切にしています。例えば、ガーナ人の青年に「公園で寝て過ごしているなら、うちへ来たら?」と事務所に誘ったところ、メンバーと一緒に食料物資支援の整理や荷物運びをするように。最初はほとんど口をきかなかったのが、今やアクセプト・インターナショナルの頼もしいメンバーになっているのだそうです。

永井「ボランティアでも小さいことでも、社会に参加することに大きな意義があります。困難な状況にある彼らだからこそ、できることがたくさんあるはず。その可能性に光を当て、引き出していくことも私たちの役割です。彼らが参加できる場をたくさんつくって、新たなステップにつながる機会を少しでも多く提供していきたいですね」


ホームレス状態にある人々への食料支援の様子
ホームレス状態にある人々への食料支援の様子

休眠預金活用事業をきっかけに生まれた3団体の連携

アクセプト・インターナショナルがこの事業を通じて得られた大きな成果の一つが、団体同士の連携です。同時期に休眠預金活用事業の実行団体として採択されたのを機に、Mother’s Tree Japan、つくろい東京ファンドの2団体とつながり、思いがけない強力な支援ネットワークが生まれました。例えば、路上生活をしていたムスリマの妊婦のケースでは、Mother’s Tree Japanが出産可能な病院を探し、イスラム教の文化に配慮して女医を手配。つくろい東京ファンドが居所を確保し、アクセプト・インターナショナルがハラル食品の提供を実施しました。各団体の専門性を活かした支援が迅速に展開され、適切なサポートを提供することができたのです。

吉野「自分たちが不得意なところは、得意な団体にお任せする大切さを改めて学びました。今も3団体で情報を共有しながら、連携を深めています」

「後進の育成」も今回の事業を通じて得られた大きな成果です。日本では難民支援の経験者が少ない中、今回の事業を通して若手メンバーが多様なケースを経験し、実践を積む機会を得ました。

吉野「若手メンバーが現場での経験を重ねることで、知識やノウハウをしっかり継承できました。今では、自ら判断し行動できるまでに成長し、今後のさらなる支援につながると期待しています」

アクセプト・インターナショナルは事業終了後も、当事者が中長期の展望を持てるよう、可能な限りバックアップを継続。「平和の担い手を増やす」活動として、テロ・紛争に関わる若者を保護する活動に加え、在日ムスリムのネットワーク強化など、国内外の活動に引き続き力を入れていきます。

永井「私は、テロリストも非行少年も、在日ムスリムも難民もみんな、社会の担い手、平和の担い手になれると心から思っています。これからも彼らに伴走し、その可能性を探り続けていくとともに、まだアプローチできていない『解決の担い手がいない難しい問題』にもチャレンジしていきます」


取材に対応してくださった、アクセプト・インターナショナルのメンバー。左から冨山さん、吉野さん、永井さん、メルテンスさん
取材に対応してくださった、アクセプト・インターナショナルのメンバー。左から冨山さん、吉野さん、永井さん、メルテンスさん

■資金分配団体POからのメッセージ
アクセプト・インターナショナルの強みは、「難しい問題こそ自分たちがやる」という高いプロフェッショナル意識と、海外で培った独自のノウハウにあると考えています。今回その強みを活かし、既存の支援団体では対応が難しかった在留資格が不安定な在日外国人への支援が可能になりました。また、私たちが資金分配団体を務めるにあたり重視していたのが、団体同士のつながりです。実際に実行団体間の連携が生まれ、情報共有も進んだことは、大きな成果の一つです。今後さらに、さまざまな強みを持つ団体同士の連携が進み、支援の輪が広がることを願っています。

(NPO法人 青少年自立援助センター YSC Global School/浅倉みさきさん)

【事業基礎情報】

実行団体
特定非営利活動法人 Accept International
事業名

難民認定申請者及び非正規滞在者への緊急人道支援事業(2023年度緊急支援枠)

活動対象地域
東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県
資金分配団体
特定非営利活動法人 青少年自立援助センター

採択助成事業

急増する「海外にルーツを持つ子育て家庭・若者・困窮者」緊急支援事業

休プラ編集部